いつからだろう。いつからだったろう。
ふと後ろを振り返れば、レジーがいてくれたのは。
守るように、背中を押すように、そこにいてくれたのは。
実現するとは思わなかった空飛ぶ絨毯でのピクニックに、一番驚いていたのはローラ姫だった。もっともらしく『視察』だなどと理由をつけて魔法使いを誘ってみたのだが、その実彼にはそれに付き合う理由も義理もなかったからだ。
それなのに、迎春祭を控えたある日、ふらりと現れてぶっきらぼうに
「視察はどうするんだ」
と聞かれたので心底驚いてしまい、反射的に
「迎春祭の三日後」
と答えてしまった。
本当に本当に驚いた。約束を交わしたのは、冬の足音が忍び寄る寒い日だったのに、レジーは覚えていてくれたのだ。
それから先は、迎春祭に、書類の片付けにと忙殺されて日々は流れていったけれど、それがすべて片付いたその日を楽しみに頑張れた気がするのだ。
当日は、やわらかな風が吹いていた。
因果のある木の幹に額を寄せると、疲れがふぃと取り除かれあたたかなものが体中に染み渡っていく気がした。
「気持ちがいい」
夢のように気持ちがよかった。
緑が萌える村を見下ろすのも気持ちがよかった。自分の国であることが誇らしかった。心底、この風景を守りたいと思った。
なにをするでもない、そんな貴重な日。
やわらかな陽の下でする読書。傍らには大切な魔法使い。自覚のない眠気によりかかってしまうと、さり気なく肩を落としてくれる優しさが嬉しかった。
だから安心してしまう。その肩のぬくもりに。
そんな彼は、まるで春の太陽。
夏には苛烈なまでの熱をそそぐのに、春には穏やかに柔らかい祝福を与えてくれる。
誰が望まずとも、いつも変わらずにそこにいてくれる。それだけで希望を持って、人は生きていける。
けれども、空に独りある太陽の存在も、永遠ではないと知っている。
陽のささぬ影があるとも知っている。その加護がなくなった時に人の真価が試されるのだと思う。国の命運を背負う者であれば尚更に・・・。
だけど今は甘えていよう。
もう少しだけ甘えていよう。